「独自の小型風車を開発し、世の中に普及させる」ことを使命としているWINDシミュレーション株式会社。昨年のPoCは脱炭素と自然災害対策のため、小型風車の風況および発電量予測技術の開発を進めてきました。今回は、WINDシミュレーション株式会社の代表取締役である中田秀輝さんに昨年も含めた、スタートアップ実証実験促進事業(PoC)に関連したインタビューをさせて頂きました。
<会社概要>
会社名:WINDシミュレーション株式会社 |
― 自己紹介をお願いします
中田さん:
私は2019年10月に創業し今年で約3年が経ちました。事務所は京都府の関西学術研究都市にあります。
主な事業は4つあります。まず1つ目は脱炭素を目標とした小型風車の開発。次に2つ目としては、風車の発電量を予想するシュミレーターの開発。3つ目に都市の緯度経度から風速や風向を計算する気流シミュレーション。最後に深紫外線を用いた殺菌装置や空気清浄機の開発を行っています。これらは全て「流体力学」をベースに事業を展開しています。私はパナソニックのR&D部門の出身で、そこで流体のシミュレーションをやったことがあります。そこでの経験や知識を活かして、定年退職した後に何か社会の課題に貢献できないかと思い、今の事業を進めています。
(KOINにて/編集部撮影)
― 事業内容について
中田さん:
新たな事業である深紫外線を用いた殺菌装置や空気清浄機の開発事業は、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、課題に直面して始めた事業なのですが、これも流体力学を応用し業界初となる開発をしました。世の中にない技術で様々な社会課題を解決したいという想いから、本質的な課題は何か、どのような技術でそれを解決できるのか、などの想いからアプローチ方法を考えて、まずは特許を取得しました。その後にプロトタイプモデルを作成し、本当に世の中の役に立つのかを検証した後に商品化を進めています。前職の経験からも特許の重要性を痛感しており、この流れで事業展開をしています。これまで100件以上の特許を申請してきた経験や習慣が活きているのかなと思います。
― ビジネスモデルに出会ったきっかけとは?
(ご本人提供)
中田さん:
元々は流体力学の活用から「風車」に関係する事業に取り組んでいたのですが、コロナ禍で何か役に立てることがないかと考えた時に、流体力学を応用した殺菌装置を思いつきました。飛沫感染という言葉がありますが、飛沫はアクリル板などがあったとしても、1時間以上空気中を漂ってしまうことが分かっています。そこで、流体シミュレーション技術を使って、飛沫自体をすぐに吸引し、殺菌ができる装置があったら良いなと思い商品化を目指しました。時期的にもすぐに取り組まないと意味がないと思ったため、2020年5月の発案から急いで開発し、2021年10月には完成することができました。約1年半で、前述の通り、プロトタイプモデルを作り、特許を申請し、協力企業を探し、実証実験をする…などの工程を半年で全て行いました。
― PoCに応募されたきっかけは?
中田さん:
まず募集自体は、けいはんなプラザのラボ棟内に置いてあったチラシから知りました。
コロナ禍においてアクリル板やマスク、換気といった感染対策は、まだまだ技術を用いた本質的な対策にはなっていないのではないかと感じていました。既存の殺菌装置などはありますが、既存製品の多くは、大きくて重いために持ち運びが簡単にできません。そのため、もっと小型化できないかと考えました。さらに小型化できたのなら、今までとは概念が変わるため、学校や病院、催事など街全体で社会実装した場合は、どのような社会的な効果があるのかシミュレーションしたいと考え応募しました。
― 今回はどのようなPoCを行いましたか?
中田さん:
今回のPoCは、持ち運びできて首から下げられるモバイルタイプを考え、それを街全体で社会実装した場合は、どのような社会的な効果があるのかを検証しました。開発面では、性能やコスト、サイズのバランスが取れるのか。そして実際に課題解決にどれくらいの効果があり、どのような新しい使い方があるのか。それぞれ検証しました。
(KOINにて/編集部撮影)
― そこに対する費用感や掛かったリソースを教えてください
中田さん:
弊社側は主に1人で行なっていて費用的には100万円程度となります。ただし、協力会社さまのリソースなどを活用しているため、そちらも含めると50人ほどと思います。やはり、我々のようなベンチャー企業は、提携しながら進めることが大切で、協力企業さまと一緒に行うことが多いです。
― 苦労した点について教えてください
中田さん:
持ち運びができるサイズにまでしないといけませんが、サイズを小さくすると、どうしても殺菌性能が落ちてしまいます。また、UV殺菌灯を効率よくかつ長寿命に発光させるインバータをいかに小型に構成するのかも難しいところでした。単位時間当たりの殺菌性能を上げようとすればたくさん流量を増やしたいところですが、流量を上げるとウイルスを殺菌するための光量が不足してしましまいます。また、流量が少ないと空気中に舞った飛沫を吸引する能力が落ち、殺菌性能が落ちてしまいます。性能とサイズとのバランスを上手く調整する必要があります。更に、飛沫を吸う機能と綺麗な空気を出す機能を1つした場合、どのようにすればユーザーが簡単に切り替えられるのかを考えるところも苦労しました。最終には、アクリル板を左と右にズラすことで切り替えできるようしましたが。
― 現時点でどのような成果を得られたのでしょうか?
中田さん:
機能的な部分で問題がないかについては検証ができました。どのくらいの性能がユーザーに取って適切なのか、流速の強度との兼ね合いなども含めて、ある程度の適切な能力を知ることことができました。
― 周りにどれくらいPoCをおすすめされたいでしょうか?
中田さん:
PoCに関しては、すごく良い制度だと思っています。昨年度も別事業でサポートしてもらい、今年度もサポートして頂いているため大変ありがたく思っています。
― 昨年度のPoCはどのようなことをされましたか?
中田さん:
昨年度のPoCについては、風車の事業で実施しました。繰り返しになりますが、弊社の核となっているのは「流体力学」です。いまの世の中ではSDGsなども含めて、脱炭素の流れが強くなっていますが、その中でも再生可能エネルギーが注目されています。再生可能エネルギーとしてはいくつかの技術や方法がありますが、風車による風力発電もそのうちの1つです。弊社の風力の事業では、街全体に小型の風車を何本か建設し、群制御することで風力発電を試みるのですが、街全体の気流シミュレーションを行うことで発電量がどのくらいであり、どれくらい脱炭素に繋がるのかについてなどを検証しました。例えば、けいはんなプラザのビル屋上に風車を設置した場合、どのような風が吹いて、どれくらいの発電量が見込まれるのかについてシミュレーションを実際に行いました。最終的には、昨年度としては、街全体に風車を建設することでどれくらい発電するのか。そして、実際に脱炭素にどれくらい効果があるのかについて費用面も含めたシミュレーションができました。
(ご本人提供)
最終的に我々として目指しているところは、効率よく発電できる小型風車を独自に開発し、世の中に普及させることです。現在の状況から想定すると、おそらく2050年頃になると発電量のうち25%が風力発電によるものになると予測されています。具体的な内訳としては太陽光発電が25%、風力発電が25%、残りはその他発電(水力、原子力、ガス等)です。このことから、未来の発電事情としては、それぞれの自宅に発電装置が付くようになると考えています。例えば、現在だと自宅の屋根にソーラーパネルを設置して太陽光発電をするという方法が主流ですが、それとセットになって、小型風車による風力発電も付くようになると思っています。ただし、効率よく小型化した風車を開発することや、うるさくない静音化された風車、台風が来ても大丈夫なように安全性を考慮した風車など色々と考えていく必要があります。我々としては、それらの課題を上手に解決して実現させたいと考えています。
現在は特許の申請やシミュレーションも終わり、効果があることが検証できたため、プロトタイプモデルを作ろうとしている段階です。
― 違いはどういったものがありますか?
中田さん:
国際学会にて発表を行ったのですが、吹いてくる風に対して風車の羽根の角度を変えることができると、抵抗音を抑えることができて音が静かになる上に、発電力が3割ほども高まることが分りました。
また、風車による風力発電は、現在の太陽光発電から置き換えて導入するという話しではなく、太陽光とのハイブリットの発電方法として活用するのが良いかなと考えています。例えば、メインの発電は太陽光で行って、夜や雨で太陽が出ていない時に風力発電で補完するというイメージです。どうしても風車による風力発電だけで、発電するのに必要な全ての設備を整えようとすると、金額の面からも導入費用の元を取るのに10年や20年と時間がかかってしまいます。そのためビルの屋上や自宅の一部分に手軽に設置できるように選択肢を増やすことで、安定的に発電できる状況をつくることができれば、太陽光発電で仕様しているパワーコンディショナーの一部を使うなどにより、よりコストを下げることも可能となるかと思います。
(KOINにて/編集部撮影)
― PoCについて何か考えていることはありますか?
中田さん:
風車についてはこれからプロトタイプモデルを作成する段階なのですが、どのように製品化していくのか。そのための資金面や広報PR面も含めて、とても険しい道だと思っています。また、この事業に協力してくださる方々を探すことも大変で、技術の力や一緒に開発頂ける方がいないと次に進めません。上手くそのような方に繋がっていき、巻き込んでいくというのもとても大切だなと感じているところです。
― この先に描かれている展望を教えてください
中田さん:
やはり10年後ぐらい先の未来には、それぞれの自宅に1台のような形で風車を設置する時代が来ると考えています。何度もお伝えしていますが、ソーラーパネルによる太陽光発電がメインですが、風車も置いてあるといったような時代になるように。それに向けてアニメーションを使うなど、色々と工夫して皆さまに対して、これからも発信していきたいと思っています。
― スタートアップとして、京都で経営されるメリットがあれば教えてください
中田さん:
何かモノを作ろうと考えた時に、京都はモノづくりの会社がたくさんあるためとても便利だなと思います。こんな製品を作りたい…と思った時に、すぐに相談できるためです。さらには、大学も多く、何かを大学と一緒に始める時という点でもすごく可能性があると思います。実際に、今手掛けている小型風車の開発やシミュレーションに関する部分については、実際に京都大学の先生たちから話を頂いたこともあります。京都で経営されるのであれば、そのように様々な大学があるため、事業展開に向けて上手く組んでいけるのではないかなと感じます。
― 最後にこれから起業を考える人や後輩起業家に一言!
中田さん:
どこ企業や人たちと、どのように組んでいくのかを戦略的に考えていかねばいかず、そこが難しいところだと思います。本当にそこについてはしっかりと考えて進めていった方が良いと思います。また、新しいことを始める時には、必ず先に特許取得を考えてください。後から申請することができない場合がありますし、そこがモノづくりではコアになると行っても過言ではありません。最後に、考えている事業がきちんと事業化するまでには壁がそれぞれあります。どうしたら最適な方法で、その壁を乗り越えることができるのかについては、都度、色々な方々に相談しながら進めることが良いかなと思います。皆さんの起業を応援しています。
参考(活用された補助金)
・京都府スマートけいはんな実証促進事業補助金
本記事の問い合わせ先
一般社団法人京都知恵産業創造の森 スタートアップ推進部
E-mail:startup@chiemori.jp